須藤 真澄須藤真澄氏の漫画に魅入られてから、もう10年以上になる。
小学4年くらいの頃、ようやくお小遣いで雑誌を買うことを覚えた私は、
お気に入りの雑誌を月に2冊ほど購読していた。
初めて読んだ須藤漫画は、シンプルな絵柄に不思議なストーリーで、
それまでに味わったことのない感動を与えてくれた。
お気に入りの作家を追跡するほど、思考力も経済力もなかったので、
その時はそれきりになってしまっていたが、のちに奇妙な場所で再会を果たした。
「ムー」という雑誌をご存知だろうか。
あ、そこの人、引かない引かない。
戻ってきて下さい。
ティーンにはありがちな超常現象への好奇心が、
ちょっとばっかし人より強かっただけなのである。
今でも、幽霊も物の怪も信じている人間だが、
かといって妄信的に何かに入れ込んでいるということはないので。
(司馬蝶くらいだわな)
前世が戦士だったとかそんなのは思ってませんので。ええ。
その有名オカルト雑誌の「編集部便り」かなんかのちっちゃい漫画を、
須藤さんは描いていた。
クレジットは違う名前だったので、「あれ、似てるだけか」と当時は思ったのだが、
あんな独特な絵柄、二番煎じで売れるわけがない。
後に御本人だったと判明したが、なんで別名でやってたんだろう…。
まあいいや。
他にも数々の「偶然の再会」を果たし、
現在ではしっかり須藤チェイサーなわたくしなのであります。
最近の須藤作品で、大きくウェイトを占めている「ゆずシリーズ」
須藤さんの愛猫ゆずくんとの日々をおもしろおかしく綴ったコミックエッセイである。
この人、幻想的な漫画も巧いが、腹がよじれるようなギャグもめちゃめちゃ巧い。
何度笑い泣きさせられたかわからない。
大きくデフォルメされた絵柄とネタながら、猫と暮らしたことのある人間なら
「ああ、そうそう!」と共感してしまうエピソードに溢れている。
そのデフォルメされた物語の中でも、須藤さんの猫可愛がりっぷりは甚だしく、
(見る人によっては「ケッ、アホか」と言われてしまいそうなほどです)
内心「この人、いつかゆず君が死んだら大変なことになりそうだなぁ」などと思っていた。
そしてそれが現実になった。
というか、失礼を承知で告白するが、実は私はゆずは「二代目」だと思っていた。
最初の「ゆずまんが」を読んだのがかなり前のことで、
未だに漫画の方では元気に走り回っていたものだから、
てっきりそんなことだと思いこんでいたのである。
ごめんなさい。
須藤さんの落胆ぶりは私の予想通り、いやそれ以上で、
しばらくはお仕事も手に着かなかったようである。
ペットロスという症状に理解のない人たちに心ない言葉を吐き捨てられているのを見て、
私もつらかったのを覚えている。
どうか、どうか戻ってきてください、そうも祈った。
自分本位だな…。
でもこの人の作品には少なからず影響を受けているので(あまり面には出てないけど)、
このまま作家としての道を終えてしまうのが悲しいと思ったのだ。
そういう人たちには、ずっと自分の先を歩いていて欲しい。
…なんて、甘ったれた考えだろうか。
果たして、須藤さんは戻ってきた。
ゆずの最後の漫画を携えて。
ゆずを失った悲しみ、後悔、空虚さ。
それを乗り越えて、生きることを思い出す姿。
電車の中で読んでいたが、涙が落ちないように目を見開いているのが大変だった。
前に立っていたおばさんは、「なに、この人」と思っていたことだろう。
前に飼っていた猫の時が、同じだった。
私も彼の最後には立ち会えなかった。
放課後、職員室に呼び出され、電話口で訃報を聞いた。
母からの電話を切ったあと、どうしても涙が止まらなくて、
ボロボロと泣いたまま廊下を歩いたことを思い出す。
うちの猫は、農薬だかネコイラズだかにあたってしまい、
かかりつけの病院に入院していた。
彼はずいぶんと人見知りの甘えん坊で、容態よりもそれが心配だった。
ひとりぼっちになってしまって、寂しくはないだろうか、と。
もう良くは覚えていないのだが、入院してからが早かったような気がする。
私は今でも、「孤独」が彼の死因ではないかとさえ思っている。
知らない犬や猫、知らない人間に囲まれ、ゲージに閉じこめられて、
どんなに心細かったろうと思う。
「どうしてこんな辛い目にあっているんだろう」
と思いながら死んでいったのかと思うと、不憫で仕方がない。
その悲しみが、シンクロしてしまった。
(須藤さんのケースの方がずっとヘビーだけど…)
その「死」の後のいろいろが賛否両論の嵐を呼びそうだな、と思いはしたものの、
これは「個人の自由」の範囲内であると私は思う。
「それぐらい愛してたんだよ」ではなく
「それがこの人の愛し方なんだよ」と、言いたい。
ゆずくん、お疲れさま。
須藤さん、おかえり。
優しいだんなさんとちっちゃい二匹に感謝。
またパワフルな漫画、描いて下さい。
あと何十年か一生懸命生きたら、また会える、よね。
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